第三話「ヨウコという女-2章」〜「宮内という男」

新宿、花園神社にて

ヨウコは靖国通りを渡って、ゴールデン街手前ある花園神社へ入っていく。

朱色の鳥居が黄昏れている。

ヨウコは飲んでる時に限ってこの神社が好きだ。
酒で過激になっていく気持ちを少しだけ穏やかに整えてくれるような、そんな作用がココにはある。

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ヨウコは無宗教だが、なんとなく境内の脇を通り過ぎるだけでは失礼かも。とか思って、参拝もしていく。

感謝も、願いも、別になにもない。今日もただルーティンワークの様に手を合わせている。

毎度それに気づいてなんか面白いなと思いながら境内の脇の階段に腰掛ける。

ヨウコ 「ああっ。またココ来て座ってる。」

九州で生まれ育ったヨウコは声がデカい。人よりも声がとおる。
他に階段に腰掛けているカップルはヨウコの独り言に気づいているようだ。

カップルは互いに言葉を交わさずに立ち去っていく。

ヨウコ 「・・・」

自分の声のせいか、それがヨウコには思い込みかどうかは分からないが、視界からはカップルが消えた。

一人で階段に座り込む時間が少し経つと、一旦落ち着いた社交の気持ちがまたむくむくとこみ上げてくる。

その時、前を歩き通り過ぎていくと思った一人の若い男がヨウコの方を向いて様子を伺いながら話しかけてくる。

「あのお姉さん。ずばり、お綺麗ですが、仕事終わりですか?」

ヨウコ 「・・・」

「あ、俺は丁度仕事帰りでして、これから一人で飲もうと思ってたんですけど、どうです?一杯。」

男はスーツ姿で、みたとこ20代前半くらいだ。

顔は整っていて誠実そうな顔立ちだが、先は不誠実な事しかなさそうな行動だ。

だがヨウコは考えることなく、社交の時間だからと、ヨウコは年下に見せる笑顔で

ヨウコ 「いいですよ。飲みましょう。」

「お!ノリいいですね!」「なんかぼーっとしてるから大丈夫かな、なんて思ってたんですけど、ノリよくてよかったあ。」

ヨウコ 「いやいや。まだ飲んでないんですか?」

「あ、まだです。お姉さんは?あ、なんて呼べばいいですか?」

ヨウコ 「まあまあ飲んでるけど。行こっ。」

ヨウコはパッと立ち、階段を降りてゴールデン街の方へ歩き出す。

男はスグに横に並んで歩き出す。

「ああ、はい。あ、名前は教えてくれないんですね(笑)」

ヨウコ 「いいでしょ別に。飲めば忘れちゃうんだし。」

「おおーー。なんかいいっすね。お姉さん楽しい人の可能性大ですね。」

ヨウコ 「あそう。」

ナンパ男を後ろに従え、ヨウコは意気揚々と交番の前を通りゴールデン街へと入っていく。
若い男はヨウコのペースにのまれながらも、ついていくしかない。

ヨウコは今夜の酒はどうなるか内心ワクワクしながら今日二軒目の店の扉を勢いよく開ける。

開門!

宮内という男。新宿 「とんかつ政」 17時過ぎ

宮内は区役所の裏通りに風俗案内所が群れている中ひっそりと営業している、とんかつ屋・政の狭い店内で厨房を囲むカウンターの奥の席に座っている。

店内は静かだ。

客は宮内以外にいない。

肌の黒い二人組の若い男が入ってきたが、宮内が即「閉店だから」と言う。
白髪まじりの奇妙なくらい突き出た腹を持つ70代の店主は何も言わない。
だが、宮内に遠慮しているという訳でもない。

淡々と宮内のトンカツを用意している。豚肉を鍋の油に放り込み「ジュワッ」という音を立てて揚げていく。左手を腰に、右手に菜箸で揚げを見守っている。

香ばしい揚げ油の匂いと、千切りにされたキャベツの水っぽい匂いが合わさって、目隠ししても営業してるとわかるが、二人の若い男は文句を言いたげにシブシブ帰っていく。

宮内は店主に声をかけるでもなく、KIRINの大瓶を小さいグラスに注いで、出されているキュウリの浅漬けをドラえもんみたいに丸い手で箸を持ちホイホイ口に放り込む。

二、三噛んだらスグにビールを流し込む。
あっという間にキュウリはなくなった。
なくなった後もペースを変えずにビールを飲んでいく。

一本がかろうじて少し残ってるくらいの頃に、店主が揚がったトンカツを大皿にキュウリを添えて宮内の前に出す。

宮内は無言で食べ出す。カラシをまず全体にべったり付けてからソースを塗っていく。
キャベツにはなにもかけない。
店主は白いご飯と、みそ汁も出す。

宮内は椀を左手に持ち、肉を一切れ口にいれ少し噛んだらすかさず白い飯を口に入れる。

美味いんだろう。どうせ。もごもごしながら「美味いよ」と言う。店主は無言でうなづくだけだ。

キャベツを大量に食べ始める。宮内の食べ方はみていて訳が分からない。
順番もくそも無い。ただ食べたいものをガンガン口に運んでいく。
ずっと口には満載だが、宮内の食べ姿は見ていて気持ちがいい。
あっという間に完食だ。その間はビールに手をつけていない。

宮内は器を下げる。店主は器を受け取り、洗い物を済ませたら、ビールの大瓶とグラスを手に宮内の隣一つあけて自らも腰掛ける。

店主は宮内のグラスに酌をする。宮内は瓶を取り上げ店主のグラスに酌を返す。

二人はグラスをコツっとぶつけて乾杯して、ビールを飲み干す。

また今度は宮内が店主に酌をして自分のグラスにも注ぐ。

店主 「どうだ。調子は。久しぶりじゃねえか。順調か?」

宮内 「順調だよ。今年は一番良いんじゃないかな。目が離せないから大変だけど、俺は楽しんでるよ。兄貴は?」

店主 「俺は相変わらずよ。キャベツ千切りが上手くなったかもな。」

宮内 「なんだいそりゃ。もう10年はやってるだろうに。」

店主 「いや、それがどうも上手くなってきたんだよ。ココに来て」

宮内 「そうかい。なんでもいいけどよ。義姉さんいなくなってから一人で店やるの大変だろう。」

店主 「いいんだよ。大変でも。この歳迄生きて大変じゃねえやつはろくなやついねえぞ。年寄りは大変なくらいが丁度いいのさ。」

宮内 「うちはよくはたらく血だねえ。つったって兄貴もまだ70か」

店主 「馬鹿。まだ68だよ。」

宮内 「あ、そうか。俺はまだまだ若いねえ。」

「あ、でもね10歳くらいの時に兄貴に怒られてぶん殴られた時の影響か最近物忘れが激しいよ。」

店主 「なに言ってんだ。お前も50過ぎなんだからそれくらいは当然だろ。」「それでも十分若けえじゃねえか。」

宮内 「そうだね。」

宮内はビールを飲み干し、また酌をしながら、
「そういやさ、最近いい若いのいない?」

店主 「またかよ。内田はどうした。イキがよくて使えるだろうが。」

宮内 「いやちゃんと働くけどあいつは若死の気があるからダメそうだよ。」

店主 「知らねえよ。大体おめえの商売なんて一代限りでいいだろうが。おめえが死ぬまで持ってくれりゃ御の字ってもんよ。」

宮内 「兄貴、そうは言ってもさ、うちがダメになったら客が悲しむからさ・・・。」

店主 「馬鹿。おめえんとこの客だっていずれ死ぬんだ。放っておけ。」

宮内 「そんな、いいじゃねえか。そんな悟りきったような話聞きたい訳じゃないのよ俺も。」「とにかくいたら寄越してくれよ。頼むよお兄貴。」

宮内は手を合わせて拝む。
店主は顔をしかめっ面に

店主 「うるせえ。頼むな馬鹿。その辺の電柱にでも求人出せ。」

宮内 「そんな訳にいかねえだろうが。頼むよ。ね。兄貴。恩に着るから」

店主 「おめえ恩に着るとか言って、たまに来てトンカツ食って帰るだけじゃねえか。いい加減どっか静かなとこに墓でも用意しとけアホが。」

宮内 「わかった。用意するよ。用意するからさ。頼んだよ。」

店主 「いらねえよ・・・。わかったわかった。ホントしつこいねおめえは。というかおめえは頼み事しかできねえな。全く。」

宮内 「助かる!助かります!じゃあ頼んだよ。また来るからさ。」

店主はビールを持って厨房に戻りながら、

店主 「うるせえ。もう来んな。俺は手配師じゃねえぞ、トンカツ屋なんだ。来るなら食いにだけ来い。」

宮内 「わかりました!兄貴。キャベツ千切りで指斬って死ぬなよ。」

店主 「うるせえ!いい加減にしろ。店開けるからもう行け。」

宮内 「はいはい。わかりました。行きますよ。それじゃ兄貴、達者でね。」

店主 「なにが達者でだ!てめえ!」

宮内はカラカラ笑いながら店を後にする。戸を締め際「じゃ、兄貴頼んだよ!またね。」

店主はもう宮内を見ずキャベツの千切りを始めてる。

外はネオンがバチバチ光っている。

兄貴は元気だし、トンカツは美味いし、用事は済んだしで、宮内は満足気な表情で腹を一つ叩いて歩き出す。

夜は始まってきた。

続く

『飲む、飲む、飲む!』は月、水、金曜日の11:30に更新予定です。

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ころまん阿部

ころまん阿部

職業:映画監督(作品なし)。小説家(当ブログ掲載)。脚本家(いっぱい)。通販コンサル(限りなくインチキ)。お酒の申し子。 経歴:中学校卒業後、電気工事士として働きだす。その後実兄二人の立ち上げた会社に参加、関連会社立ち上げで香港移住。父親他界の半年前に、父親の事業に叔父と共に参加。それら零細企業の経営を約10年。稼ぎは多いが飲み過ぎがたたり2016年末にアル中判定。全ての仕事から離れ今に至る。良く言えば楽隠居。迷いに迷う20代後半。 月、水、金(11:30更新) 火、木、土(19:00更新)

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