映画『酔いどれ天使』黒澤明監督/美しき結核ヤクザと、アル中医者の人生の交錯。黒澤・三船の伝説はここから始まった。

 
上映時間:98分
初公開: 1948年4月27日
監督: 黒澤 明
音楽: 早坂 文雄、 服部 良一
受賞歴: 毎日映画コンクール 日本映画大賞
出演者:志村喬、三船敏郎
★★★★★(星5つ)
映画史上こんなにも美しいヤクザがいただろうか?
ヤクザ賛美ではない。ただ三船敏郎の「生」の演技が眩しい。
人間には酒が必要なんだ。必要じゃないものなんて無いんだ!!(笑)

あらすじ

ヤミ市の近くの小さな病院。院長は愛想は無いが貧乏人ばかり診察する飲んべえの男。そこへ、眼をギラギラさせた若者が、銃弾の傷の手当てのために現れた……。
参照元:allcinema

戦後闇市を舞台に、中年のアル中医者と、結核のヤクザの交流を描いた作品。

唯一無二の暴力、ヤクザ映画

決して暴力シーンがメインな訳ではない。
むしろ暴力シーンは合計五分程度しかない。

だが、強烈に観た人の脳裏に焼き付いて離れない圧倒的な、ヤクザの殴り込みシーン。
非常にくだらない話しだが、ヤクザを描く映画の中で金字塔を打ち立てているのだと訴えたい。

端的な暴力シーンが際立つ展開は、凄まじい脚本力だ。

だが本作はヤクザ映画ではない。

本作の主軸は、ヤクザ賛美ではなく、暴力でもなく、結核でもなく、
戦後間もなく、復興へと向かう第一段階の日本の市井の人々の暮らしの一コマである。

黒澤明の徹底的な冷たい目から見た、目の前の現実を少し脚色して映画にしただけなのである。

黒澤明監督の凄み・迫力

人間の、生きる希望も、絶望も、虚しさ、愚かさ、残酷さ、それら全てを包み込み何か一つ救いを求め、探し続ける旅の途中で切り取る。
それが黒澤明監督の「酔いどれ天使」だけでなく、他の作品にも総じて通じる凄み・迫力なのだ。

何故現代邦画で「酔いどれ天使」に匹敵する映画が無いのか

極論だが、一時、私ころまん阿部はそう思っていた。

ただ、楽しむ。ただ、怒れる。

そんな一つのテーマだけを追求する、観る側に考えさせる隙を与えない、
現代の劇場公開映画では、到底「酔いどれ天使」の様な映画は無いな。
と思っているのである。

観終わった後、何年経っても、何十年経っても、忘れられない映画というのは、
人間の全てを語ろうと全力で取り組んだ映画なのだろう。

その意味で言えば、黒澤明はトコトンの人だ。

死の病気肺結核

戦後間もない時代、現代に至るまで。結核は死に至る病気だった。

私ころまん阿部の、父方の祖父も1963年に33歳、結核で死んだ。

二、三日出かけて、行き倒れて死んだらしい。

着ていたジャケットのポケットには、両切りのピースの吸いさしが何本か入っていたというほど、結核でも死ぬまでタバコの好きな人だったらしい。
死ぬまでといっても、33歳だが・・・。

初めて、本作を観賞したのは13歳頃だったと記憶しているが、
その時は父親と二人で、当時出始めのDVDで観た。

その時の映画の感想は、闇市を映すシーンでやたらと明るい音楽がBGMで流れているなとか、三船敏郎が殴り込みに行き返り討ちにあうシーン等、際立ったシーンにばかり目がいって、結核について描く箇所はあまり印象に残らなかった。

今思えば、親父はどんな気持ちで観ていたのだろうか?

結核をテーマにした映画は他にもあるが、
この映画の三船敏郎演じる若きヤクザが、結核に苦しみながらも、命を粗末に扱い、死んでいく姿を親父はどうみたのだろう。

自分が九歳の時に死んだ父親の姿を重ねたりして観ていたのだろうか?

そんな親父も最期にはアフリカに行って、脳性マラリアにかかって54歳で死んだ。

私ころまん阿部も、この映画を観て、祖父、父を重ねずにはいられない。

今では命を荒削りに、生きてもしょうがないなんていう風潮だから、若くして死ぬなんてことに否定的だが、自分が当時を知らないだけで、昔もそうだったのだろうか。

ただどうしても、「酔いどれ天使」の三船敏郎演じる結核の若きヤクザの「生」が眩しくてしょうがない。

黒澤明が、どう考えてこのキャラクターを生み出し、映し出したかは知らないが、
何か、観るコチラ側に訴えるものはありとあらゆる方面から感じざるを得ないのは私だけなのだろうか。
勿論そんなことはないだろう。全ての人の心に訴えかける何かを黒澤明は作っている。

アル中の医者、志村喬

医療用アルコールまで飲んでしまう、トコトン、アル中の医者を演じる志村喬

この人の魅力はなんだろう?

達観した目元、口元

本作では眼鏡をかけている。

ちょっとこの写真だけではなんとも伝わりづらいかもしれないが、
眼鏡の奥に光る、「全てお見通し」感のすごい目と、涙袋がプクっ。の目元。

そして、結構なたらこ唇が、プクっ。の口元

これで、志村喬は中年男を演じさせたら日本史上で1、2位を競う俳優だ。

頭が切れて、アル中。

これを演じれるのは他に中々いない。というか思いつかない。

そして、医者というバックボーンを見事にコナしている。
本作では、
三船敏郎は美しく脆いが、志村喬もモロに美しく、タフで強さを感じさせる。
三船敏郎も中年期にはタフで強さを売りに活動していたようだが、志村喬には敵わない。
本作の六年後の作品である「七人の侍」の勘兵衛役も然りだ。

役者でなく、人間同士として、三船敏郎と、志村喬が喧嘩したら、志村喬が勝つに決まっていると勝手に私は思っている。

三船敏郎の出世作

三船敏郎と、黒澤明のコンビは「酔いどれ天使」から始まった。

厳密にいえば三船敏郎の出世作は、日本映画として初めてヴェネツィア国際映画祭金獅子賞アカデミー賞名誉賞を受賞した「羅生門」なのだろうが、初コンビでこの演技は凄まじい。

黒澤明は東宝での新人俳優オーディションで暴れていた三船敏郎を、高峰秀子と共に素質を見抜いて採用させたというが、
まあ、逆に言えばこれだけの面構えの男の採用に反対した連中は何なんだという感じだが、これは結果論か。

とにかく、黒澤明の自分の映画構想にカチッとハマる俳優を見いだしたのだ。

そして見事に、三船敏郎が俳優出演三作目で才能を開花させた映画と言っても過言ではない。

この映画から黒澤明・三船敏郎の世界に、映画史に名を刻む黄金コンビが始まった。

そんな風に観てもらえば、中年期のテレビに出まくっていた三船敏郎しか知らない人でも楽しめるはずだ。

異常なまでの眼力、佇まい、全身から匂い立つ野生の男臭さ、そしてアラン・ドロンに匹敵する美しさ。

これを観ずして三船敏郎は語れない。

本作は、どんな時でも、誰とでも、一人でもイツだって観ていい映画だ。
黒澤映画を堪能するのに状況は選ぶ必要はない。

 

 

 
ころまん阿部

ころまん阿部

職業:映画監督(作品なし)。小説家(当ブログ掲載)。脚本家(いっぱい)。。お酒の申し子。
経歴:中学校卒業後、電気工事士として働きだす。その後実兄二人の立ち上げた会社に参加、関連会社立ち上げで香港移住。父親他界の半年前に、父親の事業に叔父と共に参加。それら零細企業の経営を約10年。稼ぎは多いが飲み過ぎがたたり2016年末にアル中判定。全ての仕事から離れ今に至る。良く言えば楽隠居。迷いに迷う20代後半。
月、水、金(11:30更新)

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