第二話「タクオという男-1章」

巣鴨 Bar Kirin 17時過ぎ

タクオは、既にラガヴーリンをソーダ割りで一杯、ストレートで四杯目にさしかかっている。
皿にはマンゴーに見紛う、みかんのドライフルーツが入っている。

つまんで食べては、飲む。を連続している。


タクオ
「うまうま」「井山さんこれもう一皿おねがいします。」

井山 「かしこまりました。相変わらず早いですね。」

タクオ 「いや、なんかあると食べちゃうってだけです。というかこのみかんのドライフルーツ大好きっす。」

井山 「気に入ってもらえて、嬉しい限りです。ええ。」

タクオの飲み方、食べ方は遺伝

タクオは止まらないピッチで飲み続けながら、
自分と同じような飲み方、食べ方の人を思い出している。

3年前に他界した父親だ。

15歳の時に有楽町のガード下の寿司屋に連れられて飲んだ時に、父親の飲食の姿に圧倒されたものだ。

「千と千尋の神隠し」で冒頭に出てくる、千尋の両親が豚の姿になって飯をむさぼり食っている姿と同じように父親は寿司を食い、日本酒を飲みながら、ビールをチェイサーにして、小一時間はそれを続けた。

写真に写る父親は、ほぼ酔っぱらっているか、食べ物を頰張っているいる姿だ。
幼少時、家で一緒に食卓を囲んだ記憶は少ない。

17歳の時に父にゴールデン街に連れられて飲んだ時も衝撃をうけた。

バーボンウィスキーを100kgを超える巨漢の身体に、グラスごと放り込むように飲むのだ。

夕方から飲み始めて深夜を回る頃にはタクオの財布からも飲み代を捻出して、二人で許容量なんてものはおかまい無しに飲み続け、父親の、人に挑みかかる様な三白眼の目は座り、50歳過ぎの父と10代のタクオは二人揃って、世の中への反抗心をむき出しに、だが、決して声を荒げる事なく、静かに話はアチコチにぶっ飛び始めた頃合いで、
最後の店であるJAZZをなんでも流す店「シラムレン」に飛び込みロシアだかどこかの国の不思議なJazzを聴いて、マスターの出すつまみとイモ焼酎を飲み、完全に覚醒した状態で店を後にし、父は流石に限界で家路に付くのか、独りでどこかへ飲みに行くのかわからないがタクシーに乗ってどっかに行ってしまう。

静かにうるさい男だった。

取り残されたタクオはどうしようもないので、ゴールデン街で自分で見つける店に入って、父親に解放されたからか、大声で隣の客と話し続けて朝を迎える。
ということを17歳〜19歳くらいまで半年に一、二度のペースで繰り返したものである。

そんな父親の指導の甲斐あってタクオも今ではすっかり東京の飲み屋に貢献し続ける日々だ。

Bar KirinのBGM…

井山がドライフルーツのオカワリを出してきた。

すかさずタクオは手を伸ばして口に放り込みグラスを空にする。ついでに五杯目のストレートを所望する。

その時、店の扉が鳴いて、常連ではないが見かけた事のある二人組のスーツ男が入ってきた。

二人はタクオの席から一つ外したカウンター席について、早速、井山に飲み物をオーダーし、タクオに軽く会釈をする。

タクオもグラスに口を付けながら、会釈を返す。

よく知らない同士では無言の挨拶が丁度よい。
無言でも挨拶が無ければ、それはつまらない。

店内では、ラウンジ向けのそつないJAZZmixが流れている。井山は一年に一度しかBGMを変えない。

タクオはいつも五杯くらい飲んだ頃にそれに気づく。
内心では飽きたな。とか、これはこれで良いとか、その日によって思うことは違う。

あ、そうね。酔ってきましたねえ。
今夜はどんな面白い事があるかしら。
なんて思いながら、

タクオ 「井山さん。そういえばさ、こないだ来た40歳くらいのお姉さんってまた来ました?」

井山 「えっ?」

井山は誰のことか分かっているだろうに、ちょっとトボケる。よくある。癖だ。

タクオ 「あの40手前くらいの、まあまあ美人の、いい歳こいて最初から最後まで甘そうなカクテル頼み続ける姉さんですよ。」

偏見である。

井山 「ああっ。きますよ。ここのところ毎日来てるんじゃないかな。多分18時くらいにはくると思いますよ。」

タクオ 「今17時半前か。」

井山 「え、タクオさん、気になってるんですか?アシストはしませんよ。」

タクオ 「いやいや、今日はそういうモードじゃないから、会わないように一応聴いたんですよ。」「あったら絶対なんとかしてやろうってなっちゃいますもん。」「今日はとことん気持ちフリーで飲み続けたいんですよねー。」

井山 「なるほど・・・」

タクオ 「という訳でそろそろ行きます。お会計を!」「あ、井山さんなにか一杯やってください。付けておいてください。」

井山 「はいっ。頂きます。お会計少々お待ちを。」「・・・」「全部で7,000円になります。いつもありがとうございます。」

タクオは1万円を出して、釣りを貰うと、隣の2人組の客に軽く会釈をしてお店を出る。
井山が入り口階段まで送りにくる。

井山 「タクオさん。いつもありがとうございます。今夜は楽しんでください。」

タクオ 「井山さんも。ごちそうさまでした。じゃ行ってきますー。」

タクオはダダッと階段を降り、地蔵通りに出る。辺りは陽が落ちかけている。

17時半頃で地蔵通りは昼の観光地から、サラリーマンやOLの帰り道と化している。
昼はおばあちゃんの原宿だが、夕方から夜は普通のありふれた道になる。

タクオが歩き出した時、
あっ。あの女だ。
前からBar Kirinの客、40歳過ぎの美人女がお店の方へ向かってくる。

なんとなく見たことある。という感じで女はタクオの方へ目をやる。タクオはすれ違う前に軽く会釈をしておいた。女は会釈を返さない。だが目線はタクオの目を捉えていた。

ふむ。

タクオは、あれはあれで相当にヨがる女に違いないと、勝手な話を想像しながら、地蔵通りの入り口へ向う。
入り口でタクオは立ち止まる。
次の一手をどうするか少し考えている。
やはりもう、新宿ゴールデン街に行ってしまうか、イヤ、ちと腹が減っているな。

よし。

と決めタクシーを呼び止め、乗り込む、運転手に、

タクオ 「運転手さん、大塚駅の南口の方へお願いしますーーーー。」

と告げる。
行くは大塚「焼き鳥 源氏」だ。腹へったーー。

 

第二話「タクオという男。- 2章」へ続く

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ころまん阿部

ころまん阿部

職業:映画監督(作品なし)。小説家(当ブログ掲載)。脚本家(いっぱい)。。お酒の申し子。
経歴:中学校卒業後、電気工事士として働きだす。その後実兄二人の立ち上げた会社に参加、関連会社立ち上げで香港移住。父親他界の半年前に、父親の事業に叔父と共に参加。それら零細企業の経営を約10年。稼ぎは多いが飲み過ぎがたたり2016年末にアル中判定。全ての仕事から離れ今に至る。良く言えば楽隠居。迷いに迷う20代後半。
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