第一話「金曜日は、始まりの日 - 2章」

新宿駅中央改札  16時半過ぎ

改札向こうから、営業スーツスタイル(灰色)の女、
ヨウコ(32,女)が歩いてくる。
改札に、Suicaをあてたら、「ピンポーン。」残高不足か、何かで通れない。
ヨウコは面倒くさそうな表情で、改札脇、駅員のいる場所へと歩いて、
ごにょごにょした後、改札を出てくる。
携帯で時間を確認したら、急に焦った足取りで、東口階段の方へ歩いていく。

歌舞伎町入り口付近

ヨウコが歌舞伎町の入り口に入りかけた時。

スーツの男 「おおお。ヨウコさん。こっちこっち。」

ヨウコはスーツの男に気づき、走りよる。

スーツの男 「なんかすみません。わざわざ。書類預かっちゃいますね。」

ヨウコは鞄から書類を取り出し、スーツの男に手渡す。

ヨウコ 「厳重にお願いします。」

「一応確認してもらえますか。」

男は封筒の中身を少しだして確認する。

スーツの男 「たしかに。」

ヨウコ 「では、私はコチラで。」

「失礼します。」

スーツの男 「失礼します。」

 

男は歌舞伎町の方へ歩いていく。
ヨウコは、その場で携帯電話を取り出し、電話をかける。

電話の相手 「もしもーし」

ヨウコ 「あ、私ですが、今先方に書類渡しました。」

電話の相手 「あ、はい、はい。」

「うーんとね。そしたらね。ヨウコさん上がりで。」

「webから勤怠上げといて。よろしくー」

ヨウコ 「あ、了解です。」

「あ、もしもし?もしもし?」

 

ヨウコは何か言いかけたが、
電話の相手は忙しい。電話は切れている。
ヨウコはその場で、どうしようか考えている。

あ、もう、飲もう。

ちょっと仕事モードから抜け出すのに間があったが、
あっという間に晴れ晴れとした表情で、花園神社の方へと歩き出している。
この女、逡巡は無い。何を飲むのかな?
ヨウコは決めている。日本酒からやろう。この女酒豪である。
日本酒だってさ。やっぱり。今時の女性は日本酒好きですねー。

歌舞伎町・宮内会事務所内  17時頃

宮内会は歌舞伎町に事務所を構える、今時珍しい「賭場」運営だけをシノギにしているヤクザだ。
やれお台場にカジノが出来るだの、法案が通っただのと世間は騒いでいるが、
宮内会会長の宮内洋三(52)は意に介さない。
宮内会は洋三の代からだが、その名は売れている。
「手本の洋三」だとか、「ラスベガス宮内」とか、「青天井の宮内」等と渾名されている宮内が開く賭場は都内では随一だと評判だ。
所謂カジノで遊ぶ、ルーレット、スロット、カード系は無い。
「手本引き」のみにこだわる。宮内会直営だ。なぜ検挙されないのか・・・。

理由は二つ。

①客は財界から、警察、政治家、ヤクザ、スポーツ、商店主・・・。

と、多岐に渡る。

②宮内の接待ぶりは、そこら辺のホストや、銀座のママをも凌ぐ。

たったこれだけだ。
宮内が死ねば宮内会は無くなるだろう。
今の所後継者は育っていない。
一人若手で、喋りが達者で、頭は切れるし、男前の内田(31)という男がいるが、
どうも女癖が悪いし、兎にも角にもシャブが大好きだ。
というより、お薬全般が大好きだ。

たまに、ぶっ飛んでる時に宮内に電話をよこしてきて、一時間も二時間も「あっ・・・」「あっ・・・」と言いながら、宮内が反応に困ったように「大丈夫か?」と言ったりすると、電話の向こうで爆笑したりする。

一応心配なので、とりあえず電話をスピーカー状態で放置するが、
気がついたら「あっ・・・」という声も爆笑も聞こえなくなり、
突如として事務所に出勤してくるのだから、後継者という訳には行かない。

ちなみに宮内は男前ではない。
170cmくらいの身長で、110kgのデブである。
一応整った顔をしている。目は三白眼気味で、ちょうど良い口元のしまり具合ではある。

そんなこんなで、今日も朝からゴリゴリ現場を回してきた宮内は17時を過ぎて疲労感を漂わせつつも、とびきりの人たらしな笑顔で、内田に、

宮内 「じゃあ、内田くん。今夜は頼むね。新宿は出ないから、なにかあったら電話くださいな・・・。」

内田 「畏まりました。社長。あ、いや会長。」

この会社謎なのだが、社長はいない。だが、宮内は会長という設定らしい。
宮内は「うんうん」といった表情で、上着の黒いコートを、ダブルスーツの上に羽織り、黒いハットをかぶり、事務所を出る際に内田の方を振り向き

宮内 「内田君、今夜の飛田さんだけど、僕がどうしても顔出せないことは伝えなくていいからね。」
「来る雰囲気はちゃんと出しておいてね。よろしく。」
「じゃあ。」

内田 「はい。心得ております。お気をつけて行ってらっしゃいませ。」

宮内はそれを背中で聞いて、新宿の夜へと扉を開いて歩いていく。

歌舞伎町・宮内会事務所外

宮内は事務所のビル前で何かを待っている。
金かと思いきや、銀の腕時計を確認し、また顔を上げて何かを待っている。
そこに、スーツの男が現れる。

スーツの男 「あ、会長。すみません。遅くなってしまって。申し訳ないです。」

宮内 「いえいえ。」

スーツの男 「あ、これ書類です。」

宮内 「どうも、ご苦労様です。後で目を通したらご連絡いたしますね。」

スーツの男 「わかりました。」
「一応申し上げておきますと、結構な額になりそうですので、改めて計画を組み直した方が良いかもしれません。」

宮内 「そうですか、わかりました。またご連絡いたしますね。」

宮内はさっさと切り上げたい様子だ。

スーツの男 「わかりました。では私はコチラで。」

といいつつも動かない。

宮内 「はい。」

スーツの男 「・・・」

宮内 「・・・」

スーツの男 「あの・・・」

宮内 「あ、はいはい。どうぞどうぞ。」

スーツの男は賭場に行きたかったようだ。

宮内 「ああ、失礼いたしました。どうぞ楽しんで行ってください。ありがとうございます。」

「では、失礼いたします。」

スーツの男 「どうも。」

宮内はスーツの男を載せたエレベーターが動いたのを確認すると、区役所通りの方へ歩き出す。

宮内も、誰も彼もが今日は金曜日だ。何処へ行くのだろうか。

 

第二話「タクオという男。- 1章」へ続く

『飲む、飲む、飲む!』は月、水、金曜日に更新予定です。
この小説は「アルファポリスWebコンテンツ」で公開されていています。
面白いと思ったら↘︎バナーをクリックしてください。
ランキングを競っています!
応援を宜しくお願いします!

 
ころまん阿部

ころまん阿部

職業:映画監督(作品なし)。小説家(当ブログ掲載)。脚本家(いっぱい)。。お酒の申し子。
経歴:中学校卒業後、電気工事士として働きだす。その後実兄二人の立ち上げた会社に参加、関連会社立ち上げで香港移住。父親他界の半年前に、父親の事業に叔父と共に参加。それら零細企業の経営を約10年。稼ぎは多いが飲み過ぎがたたり2016年末にアル中判定。全ての仕事から離れ今に至る。良く言えば楽隠居。迷いに迷う20代後半。
月、水、金(11:30更新)

あわせて読みたい

コメントを残す

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。